
吃音の悩み最前線
私は今、吃音に悩む人の最前線にいる。私の開設している吃音ホッラインには毎日2~3件の相談が寄せられる。手紙や、インターネットからのメールでの相談も少なくない。多くの人は、いい加減なちょっと参考までにという相談ではない。
子どもが吃り始めてまだ10日も経っていない場合や、そのうち治ると信じて、「その内に治るよ」と言ってきたが、小学3年生になっても治らず「この話し方が嫌だから治して欲しい」という子にどう向き合えばいいかなど、吃る子どもの親からの相談が多いが、吃る人からの相談も少なくない。
卒業する生徒の名前が言えないと悩む卒業式を控えた教師や、職場の電話が恐くなって辞職しようと思っているという事務職の女性。苦手な音のある名前を言えるようになりたい、電話の恐怖から解放されたい。「できれば吃音を治したい、吃らないようになりたい」という相談だ。
そのような相談に毎日向き合う私に何ができるだろう。まずは、本人が知りたい吃音についての情報の事実を伝え、個別の相談への対処を具体的に一緒に考える。卒業式で子どもの名前が言えない、電話の応対に困るなどの場合は、「吃らずに話す方法」を求めている。私が経験した吃音治療法は熟知している。また、アメリカの提案する治療法も知っている。しかし、2週間後に控えた卒業式のために、「吃ると思うことばをゆっくりと話しなさい」「軟起声といいますが、やわらかく、軽く言い始めなさい」「声を出すとき発語器官を軽く接触させて」「自分が声を出すときの感覚に注意を払って」などという、スーパーフルーエンシーと言われるものを、相手に伝えてどんな意味があるだろうか。かつて私が民間矯正所で教えられたのとほとんど変わらない吃音コントロール方法を教えても、ほとんど役に立たないだろう。私たちがさんざん試みて失敗してきた方法でもあるからだ。 それよりも、「卒業式というせっかくのチャンスだ、自然に任せて吃るときは吃るに任せ、どうしても言えないときのために、生徒や同僚の教師や校長と作戦を立てればどうですか。いつまでも、隠し、逃げていられませんよ」と言うしかない。
中には、吃音をコントロールできる人はいるだろうが、私を含め、ほとんどの人たちが失敗してきた吃音コントロールの方法を教えることは、私にはできないのだ。ただ、その不安や辛さに耳を傾け、「吃っても仕方がない。あなたは吃るんだから」とごく当たり前のことを言い、「やってみれば」と背中を押すしかない。
吃音緩和・流暢性形成の方法には100年ほどの歴史がある。その方法を知っていても、上手く使えないのが現実なのだ。その方法がいいと信じて努力し、吃音をコントロールできる人はそれでいいのだろうが、私自身ができなかったことを人に勧めることは私にはできないのだ。