『どもる子どもとの対話 〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力〜』読後感想
対話は、楽しい
渡辺 美穂(千葉市立院内小学校 ことばの教室教員)
 
『どもる子どもとの対話』表紙
 
 私は、ことばの教室の担当になった26年前に、初めてどもる子どもと出会いました。その時は、どんなふうに授業をしたらいいのか全くわかりませんでした。しばらくして伊藤伸二さんが行っている吃音親子サマーキャンプのことを知り、「ここに行けばどもる子どもとの授業の仕方がわかるかもしれない」と思って参加しました。
 
 吃音親子サマーキャンプでは、全国から参加してくる子どもたちの学年別の話し合いの時間がありました。お互いに初対面の子どもが、初対面のスタッフによるファシリテーターと共に自分の吃音について語る姿にとても驚きました。「初対面でも子どもは語るんだ」「どもることについて前向きに語るんだ」ということを目の当たりにしてから私は、子どもとの対話を大事にしてかかわってきました。それは強い「意識」ではなく、その時に感じた感覚みたいなものでした。
 
 その後、伊藤さんたちと「言語関係図」「吃音氷山説」など、吃音に直接関係することがらを、「当事者研究」「ナラティヴ・アプローチ」「レジリエンス」「オープンダイアローグ」などに関連づけて、たくさんのことを学びました。どれも子どもとの「対話」が基本で、私は自然と子どもとの対話の時間が多くなり、その時間が楽しくなってきました。
 
 今回、この本に載せたいと思ったことは、どんなふうに子どもと対話をしているかの、26年前に私が知りたかった具体的な子どもとのやりとりです。本に載せる内容を整理するために、一緒に吃音について学び、取り組んできた高木さんや溝上さん、黒田さんたちと、お互いの子どもたちとの対話の様子を伝え合いました。「初回面接」など同じ場面であってもそれぞれ違う対話の仕方でした。
 長いつき合いの中で一度も3人の対話の様子を具体的に聞いたことがなかったので、とても興味深いものでした。その中で4人が共通だったことは、本にも載っているナラティヴ・アプローチの「無知の姿勢」「対等性」「好奇心をもって子どもと向き合う」を大切にしていることでした。今は、私も感覚ではなくしっかりと対話の仕方を意識して取り組めていると、確認できました。私を信頼して語ってくれた子どもたちのおかげです。
 
 本を読んでくださった方々が、私と同じように子どもたちとの対話を楽しんでいただければと思います。私も子どもたちに感謝し、尊敬しながらこれからも対話を楽しみたいと思います。
 
日本吃音臨床研究会機関紙『スタタリング・ナウ』2019年1月号掲載
 

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