ISADとは、『国際吃音アウェアネスの日』と言って、吃音について世界中の人によく知ってもらうことを目的に、1998年の国際吃音者連盟(ISA)の総会で決められました。 |
|
2003年のオンライン会議では、大阪スタタリングプロジェクトの川崎益彦が、日本吃音臨床研究会(JSP)の一員として、吃音者のセルフペルプグループ活動を報告しました。 |
|
ジャパンスタタリングプロジェクト 川崎 益彦
まずはじめに、僕が38歳でこのグループに出会うまでのことをお話しします。どもり始めたのは小学校入学前からで、親から「どもってはダメだ」と吃音を否定され続けていました。だから、吃音は悪い物、どもる自分は劣った子どもという考え方を持ってしまいました。症状が比較的軽かったせいか、言い換えたりごまかしたりしていましたが、自己紹介を必要とする場面や電話からは徹底して逃げていました。 父親の会社で働いているとき、会社が倒産の危機に見舞われました。その時迄僕は、「会社が悪いのは自分のどもりのせいだ」と考えていましたが、自分のどもりが治ったからといって会社がよくなるわけありません。何もかもどもりのせいにして何の努力もしなかった自分に気付いたのです。そのことに気付いてから急に気が楽になりました。それから会社の従業員に自分のどもりのことを話し、電話は全てその社員に頼む変わりに、それ以外の仕事を一所懸命にした結果、仕事はうまく行くようになりました。仕事に対する自信は出来たのですが、相変わらず話す場面になると劣等感がとてつもなく大きくなりました。
仕事をしながら、社会福祉の勉強やボランティアを始め、いくつかの心理学のワークショップにも通うようになりました。いろんなワークショップを体験する中で、どもりに対する気持ちを表現できて気持ちが癒やされたこともありましたが、その結果は自己否定を強くするだけでした。そのうち、他のワークショップに参加したときに、JSP代表である伊藤伸二さんに出会ったのです。伊藤さんは僕の話を真剣に聴いてくれました。そして伊藤さんは、「逃げることが出来るならいくら逃げても良い、逃げる自分を許そう」と言ってくれました。
僕の場合は幸い素晴らしいグループに出逢えてよかったのですが、ここで本来の意味でのセルフヘルプグループの役割とは何か考えてみたいと思います。まず、病気や障害を治すとか軽くするとかは医療の分野の話ですから、治療だけを目的とするグループはセルフヘルプグループとは言えません。治らないものをお互いどうサポートするかがセルフヘルプグループの役割です。従って、セルフヘルプグループは障害を持って集まる人の障害そのものを否定しません。つまり、吃音であれば吃音を否定しないのです。症状を軽くするとか、治すとかを本来の目標とはしないのです。ここまで読まれて「治す」ことのどこが悪いの?と疑問に思った人もいるでしょう。治すことを目標にすると、自分の持っている問題を悪いもの、消し去らなければならないものと捉えてしまい、その問題を持っている自分自身も否定することになるからです。 吃音に限らず人は病気や障害、過去の辛い体験など様々な生きづらさを抱えます。治るもの、簡単に癒やされる物なら良いのですが、現代の医学を持ってしても治らなかったり、時間が経っても癒やされない悲しみ、自分一人ではどうしようもない事柄に苦しむことがあります。そのようなとき、人はどう対処するでしょうか。一人ではとても抱えきれない、一人で考えていたのでいつも堂々巡りして悩みの深みにはまってしまう。そんなとき、セルフヘルプグループの中で、同じような悩みや体験をしている人と出会い、悩みや体験を語り、聴いてもらうことで、ともにそのことに向き合うことが出来たら、新しいもう一つの生き方が探れるのです。
では、セルフヘルプグループの中では具体的にどんなことが起こっているのでしょう。自分の名前さえ言えず、みじめで辛い体験をしてきて、周りの人に話しても理解されずにかえって嫌な経験を積み重ねてきた私たちにとって、他の人が自分の悩みを話し、皆がじっと耳を傾けて聴いている姿を見て、ここなら安心して話しても良いのだという気持ちになります。そして実際に話してみると、次のことが起こります。
はじめに自分を語り自分の話を聞いてもらうことはこんなに嬉しいことかと感じます。ここで二つのグループについて考えてみましょう。一つは自分の障害に対して否定的に捉えているグループ、もう一つは自分の障害に対して肯定的に捉えているグループです。前者も、つらいね、悲しいねといって泣くことですっきりしたりホッとして楽になることはあります。でもそれによって自分の一部でもある障害を否定する気持ちを強化する恐れがあります。したがって、楽にはなりますが、その当たりが限界です。それに対して後者のグループでは、自分の弱さや辛さを受け入れてもらうことで、くよくよしたり落ち込んだりするダメな自分でも良いということに気付いて、「今のそのままの自分でいい」と感じることが出来ます。気持ちを分かち合うことで今まで悩んできた自分自身を肯定し、悩んでいる自分を受け入れることが、社会に出ていこうというエネルギーになります。 グループの中で「どもってもいいかな」と思えるようになると、僕のセルフヘルプグループでは「日常生活の中でどんどんしゃべろうよ」と背中をポンと押す、そしてしゃべって失敗したらそれをみんなで聞いて支え合い、工夫を提案し合います。 自らの吃音をさらけ出し、症状ではなく自分自身と向き合うと、「今まで私は吃音そのもので悩み苦しむより、吃音を言い訳にして意に反した行動をしてきたことに思い悩んできたことの方がはるかに多かったかもしれない」と思います。どもるからと、消極的になっていく性格や、問題と直面するのを避ける行動パターンが、どもることだけに決めつけられないことに気付いていきます。吃音そのものに対する関心から、自分の人生に対する関心へと大きな転換がなされます。どもりを治そうとする発想そのものが私たちを苦しめていることに気付いたので、今私たちは「吃音を治す努力の否定」を明確にしています。
そうすると、JSPは吃音に対して何の努力もしていないのかというと、全くそうではありません。私たちは吃症状を治す努力はしませんが、吃音と上手につき合うための努力は数多くしています。そのために吃音教室では次の三本柱を立てています。
このように、「吃音を持ったまま吃音と上手につき合う」という明確な姿勢を持ってはじめて積極的な生き方を目指すことができます。いつまでもどもらない自分を夢みたり、どもっている自分は仮の姿だと思っているようでは、アイデンティティの確立さえできません。 吃音者だけでなく誰にとっても一番大切なのは、そのままの自分でいいという自己肯定感。そのためには自分の一部であるどもりを否定せずに、どもりを持ったままのそのままの自分でいいと思えることが大事です。特に吃音児に対しては、子どもが吃音のことで悩みかけていると気付いてからなるべく早期に、どもっても良いんだよと、のびのびとどもらせてあげるよう話し合っています。
JSP代表の伊藤さんは、先ほどの番組の中で次のように言ってました。 |
|
・国際吃音者連盟 ISA(International Stuttering Association) ・国際吃音アウェアネスの日2003 ISAD6(International Stuttering Awareness Day) ・川崎益彦 「吃音者にとって本当の意味でのセルフヘルプグループとは何か」(日本語版) ・ Questions/comments about the above paper to Masuhiko Kawasaki ・上の活動報告で紹介されている本 『論理療法と吃音』 |