第10回吃音ショートコース報告・PART 6

3日目《対談》
09:00〜12:00

「自分を生きる 運命を生きる」
諸富祥彦さん VS 伊藤伸二


 伊藤さんが、「お互いの人生をぶつけ合いましょう」と口火を切って、対談は始まりました。ところがいきなり冒頭から、一種のバトルが始まります。伊藤さんと諸富さんと、どちらが聞き手の座につくかという争いです。
 伊藤さんはこれまで、さまざまな方を招いて聞き手を勤めて来た、対談のベテランです。しかし今回、諸富さんを相手にしては、いささか勝手が違っていました。
 何しろ諸富さんは、大学でプロレス研究会を作って全国を巡業した経験の持ち主です。テレビ番組の企画で、アントニオ猪木とガチンコ対決もしています。公開バトルで数々の修羅場をくぐって来た人であり、自分のペースに相手を巻き込むことにかけては、セミプロ級の名手です。少しの応酬で、対談の主導権を諸富さんが握ってしまいました。

 こうして、ゲストが主催者にインタビューするという、珍しい対談がスタートしました。

語る伊藤伸二
伊藤伸二

 諸富さんから、「自分を生きる」「運命を生きる」ことについて話を聞くとか、「孤独の大事さ」について語り合うといった、伊藤さんが事前に用意したプランは吹っ飛んでしまいました。
 とは言え、今年で還暦を迎える伊藤さんの60年の人生を振返る、貴重な時間となりました。
 この日、聞き手となった諸富さんは、伊藤さんの小さい頃から、大学教員を辞職してカレー屋を営むに至る頃まで、人生のあれこれの局面を聞き出して行かれました。諸富さんが同じ年頃だった時の、ご自分についての話を織り交ぜながら。
 お二人の人生の軌跡は対照的であり、聞き比べることによってなお一層、お互いの人生がくっきりと見えてくる、と言った場面が幾つもありました。
 とりわけ、大学教員という職を手にする前後の、二人の歩みは正反対です。諸富さんは早くから大学教員を目指し、大学卒業後、教員の座を獲得するまでは11年間の雌伏の時期を過ごしたと明かされます。以後は手にした地位を確保することによって、ほぼ自分の考え通りにさまざまな活動を展開しているとも。

次々に質問する諸富祥彦さん
諸富祥彦さん

 一方の伊藤さんは、吃音関係の恩師の推薦で大阪教育大の研究生となり、僅か1年で大学教員になります。ところが、さまざまな理由から3年でその座を捨て、カレー屋さんになります。
 一見、伊藤さんの人生は、目標を定めない、風まかせの人生です。しかし、その人生の中で、「吃音者の仲間でグループを作る」「日本全国の吃音者に会いに行く」「世界中の吃音者が集まる場を作る」というように、伊藤さんはその時その時の夢に向って真っ直ぐに生きて来たのです。

 この対談でショートコースの参加者は、「運命を生きる」という難しいテーマを、伊藤さんの人生を振返ることを通じて、具体的に考えることが出来たと言えるでしょう。今年で10回目となる吃音ショートコースにふさわしい、意義深い対談でした。

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