11月1日〜3日の3日間、滋賀県近江希望が丘ユースホステルにて、2003年吃音ショートコースが開催されました。メインゲストに「建設的な生き方」を提唱されているデイヴィッド・K・レイノルズさんと落語家の桂文福さんを迎えました。参加者は成人吃音者やことばの教室の教師、スピーチセラピスト等総勢60名程でした。充実した3日間の内容をできるだけ詳しく紹介したいと思います。
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**** 1 日 目 ****
・PART1『出会いの広場』
今年も愛知県のことばの教室の木本さんと奥村さんの進行で、全員に握手したり、ハイタッチするなど体を動かすたくさんのゲームをしました。私は少し遅れてしまったのですが、皆さんすごくテンションが高くてびっくりしました。笑いが絶えない楽しい時間で、久しぶりの顔に次々出会えて嬉しかったです。
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・PART2『吃音臨床講座』
A:臨床家のための吃音臨床講座〜吃音児の指導に大切なもの
B:成人吃音者のための吃音臨床講座〜どもりについてみんなで語ろう
私の参加した「どもりについてみんなで語ろう」(B分科会)の報告をしたいと思います。
東野さんの進行で、まず自己紹介をしました。名前、出身、所属、ショートコースに来た動機を順番に言っていきました。「去年参加して日常生活にはずみが出たので今年も来た」「ここにくるとエネルギーをもらえる」「年に一度しか会わない人と会うのが楽しみ」どもりの人がこんなに集まることは滅多にないことですから、とても貴重なことなのだと感じました。また、例会に参加できる私は恵まれていると再確認しました。
後半は、今回のメインである「建設的な生き方」についての内観の部分について話し合いました。
セルフヘルプグループの活動の中で生まれた言葉で、
(1) あなたはあなたのままでいい・・自己受容
(2) あなたはひとりではない・・・・他者信頼
(3) あなたには力がある・・・・・・他者貢献
というのがあります。次に内観で起こる心理的変化で、
(1) 自己本位を発見する
(2) 被愛(自分が愛されている)事実を発見する・・・・他者信頼
(3) 感謝と喜びの気持ちが生まれ、何かを行おうとする強い意欲が起こる
(4) 自己本位を抑制し、愛を返す努力を決意する。・・・・他者貢献
があります。この二つには、他者信頼と他者貢献に通ずるものがあります。
自分の過去を振り返って、この3つの実体験((1)あなたはあなたのままでいい。(2)あなたはひとりではない。(3)あなたには力がある)をグループにわかれて話し合いました。
「どんな時にあなたはあなたのままでいいと思うことができましたか?」
私はこのグループに入りました。どんなことが話し合われたかというと、「どもりを隠すのがしんどくなってカミングアウトした。周りはあまり気にしてない、それでだんだんと話せるようになって少しずつ受容できた」「どもりでずっとつらい思いをしてきたが、社会人になりスーパーで働くようになりお客さんからどもりはするけど、一生懸命やっているとほめられ、子供にもしたわれることでだんだんと(どもりでもいいやん)と思えるようになった」などの意見が出ました。
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**** 2 日 目 ****
・PART3『発表の広場』
活動報告と体験発表は以下の通りです。<編集者:OSP会員以外は名字だけを紹介します>
(1) 川崎益彦さん(OSP会員)「ISAD(国際アウェイネスの日)2003」
ISAD2003には2年前にベルギーで開かれたISA大会で発表した「吃音者にとって本当の意味でのセルフヘルプグループとは何か?」が掲載されました。世界中から多くのレスポンスがありました。それを報告されていました。
<編集者:詳しくはこちらをご覧下さい。>
(2) 掛田さん(大学生・特殊教育特別専攻科)「吃音を人生のテーマに」
吃音と出会い、苦しみ、悩み、現在は吃音と共に生きようと決心されるまでの経過をユニークな話しを交えながら語ってくれました。
(3) 伊藤さん(三重県・児童相談所職員)「かなちゃんのこと」
まず、最初に緊張をほぐす(タッピングタッチ)をしました。落ち着く効果があるらしいです。内容は、かなちゃん(仮名・5才)が急に言葉は出にくくなり、ご両親が心配されて来所されてからの1年間の経過と現在の元気な様子を報告されていました。
(4) 板倉さん(岐阜県・ろう学校教諭・岐阜吃音臨床研究会)「第3回臨床家のための吃音講習会報告」
昨年、「臨床家のための吃音講習会」が大阪で開催されたときに参加したのですが、ST(言語聴覚士)の方々は本当に熱心なんだと感じました。
(5) 田中さん(千葉県・病院長)「吃音と私」
内科医として働いておられる方で、表向きの自分の虚像とボロボロに傷ついた自分の実像との間で悩み、苦しみ続けたが、今はその差が縮まっているそうです。吃音を神様からの贈り物と感じ、感謝しているそうです。
(6) 高木さん(栃木県・小学校教諭・ことばの教室担当)「子どもたちがおしえてくれたこと」
子どもと同じ目の高さで吃音と向き合い、彼らの視線の先にあるものを一緒に見つめたいと考えておられる方でした。
(7) 高瀬さん(千葉県・小学校教諭・ことばの教室担当)「2003吃音親子サマーキャンプの報告」
吃音親子サマーキャンプの魅力についてのお話。
(8) 掛谷さん(広島県・高校教諭)「なぜ、ここに? ここだからこそ!」
どもりでもなく臨床家でもない自分がなぜショートコースに参加するのか? 何回か来ていて思ったことはどんなに饒舌であってもだめで、言葉にとって大切なのは伝えようとする真剣さとそれを受けとめてくれる相手が必要であること。自分のスタイルで伝えること。ここでは聞き手や話し手のスタイルが固定していない。またたくさんの出会いもあるから参加している。こういう方が増えていくと吃音の理解も広がるのでいいなあと思いました。
(9) 五味淵さん(岐阜県・岐阜吃音臨床研究会)「わが3四半世紀の吃跡」
もう75年もどもりとつきあっている五味淵さん。吃音はずっと恥ずかしいと思ってきた。いまは、ず太く(治す努力の否定)、ずうずうしく(人口の1%の割合なのにずうずうしくも吃音宣言する)、ずるく(言い換え)という考えで吃音とつきあっているというお話でした。
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・PART4『Constructive Living(建設的な生き方)に学ぶ』(その1)
CL(建設的な生き方)は森田療法と内観療法の思想を発展させたもので、実際的で賢明な生き方ができる人間になるための教育です。森田療法では自分が生きているこの世界をありのままに受け入れ、なすべきことをしていくことを学び、内観療法からは事実を具体的にとらえることで、自分がいかに他の人、自然、周りの世界に支えられているかを学びます。
自分の意志でコントロールできるもの・・・・自分の行動
自分の意志でコントロールできないもの・・・感情(不安、怒り、恐れなど)、どもり、天気
夫(妻)、子供、行動の結果などなど
感情は人間に起きる自然現象で、どんな感情がわいてきても責任はない。ですが、どんな行動でも責任はある。例えば、どもるから電話ができないのは間違いで、どもってでも電話はできます。
どもって相手に笑われたら恥ずかしいという感情はそのまま持っておいていい。ただ受話器をもって、電話すればいいのです。
私も含めてどもりの人はイメージで悩みを作ることが多いようです。
実際、相手に笑われないかもしれないし、行動しないと事実はわかりません。
大事なことはCLのキーポイントである
(1) 事実を受け入れる・・・・感情を受け入れ、今の状態を知ること
(2) 目的を知る・・・・・・・事実を具体的に捉えることが必要
(3) なすべきことをする・・・目的にそった行動をする
次に私もとても参考になった、<すごく感情に困った時、一時的に和らげるヒント>と<行動に対してのヒント>を紹介します。
感情 (1) 気をそらす(身体を動かしたり、掃除など建設的なものが望ましい)
(2) 待つ(感情は刺激しない限り時間とともに薄らいでいきます)
(3) 感情に影響を与えるために行動する(ランニングしたくなくても靴をはいたら走りたくなるかもしれない)
行動 (1) 感情のために待たない(やりたくなる気持ちになるまで待たない)
(2) 大きなプロジェクトを作らない(部分的にやる。掃除では今日はキッチン、明日はトイレ)
(3) やりたい行動は便利に、やりたくない行動は不便にする
(4) 仕事をしてからごほうびをいただく
(5) 目的を忘れない(結果はわからないが)
(6) 友だちと一緒にやる
(7) 人の前でこういう行動をするよと約束する
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・PART5『Constructive Living(建設的な生き方)に学ぶ』(その2)
『Constructive Living(建設的な生き方)に学ぶ』の後半は、内観についてです。
内観のテーマは、〜していただいたこと
〜してさしあげたこと
〜ご迷惑をかけたこと
まず、自分の母親に対して15分間、小学校時代の内観をしました。私は「していただいたこと」が26個で、「してさしあげたこと」が3個、「ご迷惑をかけたこと」が5個になりました。「していただいたこと」が圧倒的に多く、母に対して申し訳ない、許してほしい、親孝行をしたい気持ちになりました。
宿題もたくさん出ました。「シークレットサービス」「1日に10回ありがとうと言う」「0才から20才まで両親が自分のために費やしたお金の計算、逆に自分が両親に費やしたお金」などです。
ここで大切なのは、事実を認めることが大事で感謝、親孝行を強制しているのではないことです。内観をするといかに自分の都合のいいようにイメージを作り、自己中心的であったか、たくさんの人や物のおかげで自分は生きていると気がつくことができ、なにかお返ししたい気持ちがわいてきました。
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**** 3 日 目 ****
・PART6『対談』レイノルズさん、伊藤伸二さん
<吃音にCLをどう活かせるか?>
内観は吃音にすごく活用ができる。吃音はひとりでいる時には問題はないが、他者との関係で問題が生じる。どもりで人に迷惑をかけるのは特別なことではない。どもっている人は、自分は特別であると思い込んでしまう。自分がどもっていると会社に迷惑をかけているという人がいる。実は、人は誰でも(どもり以外にも)周りの人にたくさんの迷惑をかけて暮らしていると内観では考える。そう思うとどもりの問題は相対的に小さくなる。言われてみれば、私は仕事のスピードがそんなに早くはなく、またミスをしたりするほうがよっぽど会社に迷惑をかけているなぁと気がつきました。
「迷惑をかけた」と思って行動するより、「お返ししたい」という気持ちで行動した方が、言葉や態度はどもったり、自信がなくても、結果的に自分の気持ちが伝わったり、行動もしやすくなるのではないか、とレイノルズさんはおっしゃっていました。なるほど!と思いました。
今回の講座で、私は感情中心の世界で生きてきたと気がつきました。これまで、なぜこのような感情が起きるのか? どういう風に考えていったらこの感情はなくなるのか? と、とてもしんどい生き方をしてきたんだと思いました。行動すると事実から答えが帰ってくる。レイノルズさんの本の題名でもある「人生は行動を待っている」、本当にその通りですね。
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・PART7『特別記念講演』 桂文福さん
<どもりを個性に 桂文福のオリジナル落語家人生>
文福さんは小さい時にテレビでみたことが会って、お会いできるのは本当に楽しみにしていました。
2日目の夜にコミュニティアワーにいらしたとき、部屋の空気が一瞬にして変わりみんな文福さんに釘づけになりました。芸まで披露してくれてサービス精神の固まりのような人です。
「百人おって、一人でも二人でもイヤな思いをする笑いならそれは本当の笑いではない。」
この考え方、優しい人だな、人柄がにじみでていると思いました。
前座のまめださんもおもしろくて、一生懸命さが伝わってきました。落語でうどんや本を扇子や手ぬぐいを使って表現するのを一度みてみたかったので、それが見れてうれしかったです。
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