『アサーション』(実践編)
(1)アサーションの復習
アサーションは、アサーティブ・トレーニングとも、自己主張訓練とも言います。
人は自己表現するとき、次の3つの表現の仕方をします。
1.非主張的
自分の意見を言えない。相手のことばかり考えて、相手に会わせる。自分をおろそかにした対応。自分を主張できず、したとしても曖昧な主張しか出来ない。
我慢できなくなると、攻撃的に爆発する。
(例)「今晩残業してくれないか?」
「(用事があってしたくないのに)はい、します。」
2.攻撃的
自分を大切にして自己主張するが、相手の気持ちや立場はお構いなしで、相手に対して配慮の欠ける攻撃的な態度。
(例)レストランの注文を間違えられたとき、必要以上に文句を言う。
3.主張的 (アサーション)
相手の立場も尊重しながら、自分の言い分もきちんと主張する。
その場にふさわしい表現で、相手の人権を尊重し、適切に表現できる。
(例)(上記の例で)「これ注文したのと違うんですが、取り替えてもらえますか」
(2)なぜアサーティブになれないか気付く
3番のアサーションな態度でいつも人と接することが出来れば、相手も自分も楽しく生きることが出来ると思います。しかも、自分は常に言いたい事を言えているので、イライラや不満がたまりません。
しかし、現実問題として、なかなかアサーティブになれない時があります。どうしてアサーティブになれないのでしょうか。
1.自分の本当の気持ちが把握できていない
「どうせ分かってもらえない」という体験が続くと、自分を押さえ、表現しなくなる。
その結果、自分の気持ちがはっきりせず、把握できなくなる。
2.結果や周囲を気にする。
「こんなことを言って分かってくれるだろうか」「相手が反発したり、傷ついたりしないだろうか」といったように、自分の言いたい事が伝わるかどうかばかり気にして、結果を気にする。不安を持ち、失敗を恐れると、アサーティブになれない。
3.考え方がアサーティブでない
「相手のことをまず考えなさい」「でしゃばりは嫌われますよ」「些細なことにこだわってはだめ」「いつも笑顔で」「人に迷惑をかけてはいけません」「人を傷つけるようなことを言ってはいけません」など、一見常識にもとれ、正しいと思いこみがちだが、これは論理療法でいうところの非論理的な考え方である。
例会では、チェックリストを使って、思いこみがアサーションへ及ぼす影響を調べました。
4.基本的人権への理解がない
自分がアサーティブになって良いということは、相手もアサーティブになって良い。
すなわち自分の提案に対して、相手は断る権利を持っているということ。
5.アサーションのスキルを身につけていない
アサーティブに自己を表現する技術は、他者との付き合いの中で獲得していくもので、大人になっても子どものころ身に付いた行動様式のままの人も少なくない。アサーションのスキルについては、意識的に学習し、訓練する必要がある。
ここで、いつもアサーティブでなければならないかということに対して、次のことを考えました。
例えば、電話でマンションの購入を勧誘したり、しつこい新聞の勧誘のような場合や、こわそうな人が列に割り込んできたときなど、時間やエネルギーの無駄と思われる状況や危険性が高いときは、自己主張しない権利もあります。
ただしその決断は、アサーティブにしないと、あとで気分がすっきりしません。
(3)アサーションの実習
実際に小グループに分かれてやってもらう前に、自己表現をなかなか出来ない人の助けになるせりふ作りのヒントとして、次の4つに要素を考えます。
(例)『さっきからずっとたばこを吸っている人に、たばこを止めてもらいたい』
この状況を考えて、4つの要素に合った表現を考えましょう。
1.相手の言動や状況を客観的、具体的に描写する
ただ単に「ずっと吸っている」と言うよりも、データを使って描写的に相手が分かりやすいように言う方がよい。上記の例で言うと、
「さっきから10本も吸っている」
「この部屋は煙だらけだ」
と言う方が、具体的で相手も分かりやすい。
2.I‐メッセージを作ってみる
上記の状況における自分の状態、気持ちを主観的に言う。
「私はこの部屋の煙で苦しい」
「頭がぼうっとしてきた」
3.相手にとってもらいたい行動を特定し、具体的に言う
相手に対する提案をきちんと言うとしたら、何と言おうか考える。結構いろんなチョイスが出てくる。
「たばこを止めてほしい」
「窓を開けてもいいか」
4.結果に対しての対処
上記の具体的に言った場合の、相手の反応を予測する。
「窓を開けましょう」と言ったら、「そうですね」と言ってくれる可能性と、「いや、窓を開けるのは嫌だ」という可能性がある。「嫌だ」と言われたら、「じゃあ、たばこを止めてくれますか」と言ってもいい。「ノー」と言われた時、「イエス」と言われた時の両方を考えて、次に何を言うか、その時選ぶ。
これらのことを話したあと、5〜6人の小グループに分かれて、実践しました。
イメージしてもらった話は、
お母さんが娘に「明日早く起きなければならないんだから、今日はもうそろそろ寝なさい」と10時頃言った。娘は「分かった、分かった」と言いながら一生懸命マンガを読んでいる。15分すぎてもまだ全然寝る様子はなく、まだ分厚いマンガの先を読もうとしていて、終わりそうにない。お母さんは「この子は一体いつになったら寝るのだろうか」と思ってイライラし出した。
お母さんは娘にアサーティブになんて言いますか? をみんなに考えてもらい、実際に「お母さん役」「娘役」を決めて、ロールプレイしてもらいました。
ぎこちない母娘もあったり、役になりきって多少気持ち悪いお母さんもいましたが、とっても楽しい雰囲気で、話し合いが進みました。
ある程度時間が経ったところで、分かち合いました。
●娘の気持ちを尊重してくれた優しいお母さんだったので、マンガを読むのを止めた。
●「きりのいいところまで」ということで、うまくお互い妥協できた。
●お母さんもマンガを一緒に読み出した。(母親の負け)
●娘を説得できなかった。
●お母さんに厳しく言われて、娘として寂しい思いをした。
このように、グループごとにうまくいったところ、けんかしたところなど、様々に進みましたが、娘があまり物わかりが良すぎると、アサーションのトレーニングにならないという意見が出ました。
次はもう少し込み入った課題です。
生後8ヶ月の赤ちゃんがいるお母さん。初めての子どもで慣れず、夜も時々起こされ大変な思いをしている。8時半から9時にかけて子どもが寝るが、いつもその時間になると、マンションの2階から、ピアノの練習の音が聞こえてきて、せっかく寝ていた赤ちゃんが泣き出してしまう。
その晩もやっと寝たと思って、やれやれと思った途端、ピアノが聞こえてきて泣き出してしまう。次の日、上の家に言いに行こうと思った。
同じように、「お母さん役」「上の住人役」を決めて、ロールプレイしてもらいました。ただし、上の住人も、どうしてもその時間にピアノを弾かなければならない理由があります。
最初の課題よりも、お互い困ったような雰囲気でしたが、慣れてきたためか、結構様々な意見やチョイスが出ました。分かち合いでは、
●どうしても上の住人を説得できずなかった。
●管理人さんに間に入ってもらおうという話になった。(解決していない)
●カーテンを吊るとか、2重サッシや防音室といった提案があった。
●音がうるさいと言っても、相手は「いい音楽だ」ぐらいにしか思っていない。「ピアノお上手ですね」と話し始めた方が、お互い話しやすい雰囲気になる。
このように、いろんなパターンが出て話が盛り上がり、とても面白い実習でした。
|