趣 旨
2012年8月、「吃音否定から吃音肯定へ」のテーマで「第1回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」を千葉市で開きました。北は青森から南は沖縄まで、ことばの教室の担当者、言語聴覚士、保護者、吃音の当事者の方々など、事務局の予想を大きく上まわる100名を超える参加者がありました。吃音否定から吃音肯定に転換を図るため、ナラティヴ・アプローチの理論や手法をベースとして学び、親、ことばの教室の担当者、言語聴覚士が子どもたちとどう接するか、それぞれの立場から経験に基づいた提言、語り合いが行われました。最後の振り返りでは「楽しかった!の一言です」「人生においてこんなに来てよかったと思う講習会は初めてでした」「教師として、人として大切なことを教えてもらいました」などの感想が参加者から語られました。
また、「いろいろな意見や考えがある中で、自分がどうしたらいいのか、揺れて、逃げ出したい気持ちになることがあった」「言語聴覚士だから、治さなければと言語訓練をしていたが、これでよくなるのかとずっと疑問に思っていた」などの声も聞かれ、吃音否定の前提が当事者や保護者、ことばの教室の担当者や言語聴覚士などの臨床家を追い詰めている実態も浮き彫りになりました。
第2回目の今回は、「どもる子どもと、吃音の何を学び合い、一緒に取り組むか」を当事者研究やナラティヴ・アプローチを通して学び、さらに語り合いを深めていきたいと考えています。
「泣こかい、飛ぼかい、泣こよかひっとべ」鹿児島の方言で、やらずに後悔するよりはやってみろという意味のことばがあります。どもる子どもたちとかかわる方、吃音に関心のある方々の幅広い参加をお待ちしています。鹿児島の地で、一緒にひっとびましょう。
実行委員会事務局長 溝上 茂樹(鹿児島県 知名町立知名小学校)
内容・テーマ:「子どもとともに、ことばを紡ぎ出す」
「吃音否定」が前提の「吃音を治す、改善する」が破綻をしているのは、吃音研究・臨床の100年の歴史を振り返っても明らかです。これまでの否定的な吃音観を持ち続ける限り、今後の展望は見えてきません。吃音を否定せず、吃音に悩むことで起こってくる課題に取り組む「吃音肯定」を前提とした取り組みが求められています。それにはまず、これまでどもる子どもやどもる人に向けられてきた否定的なまなざしを、肯定的なものへと転換する必要があります。吃音にまつわるネガティヴな物語から、「どもっていても大丈夫」の吃音肯定の物語を、子どもだけでなく、どもる子どもに関わる人々と共有したいと思います。その上で、自分自身や学校生活の中で苦戦していることについて、当事者である子ども自身が自ら研究する当事者研究を、ことばの教室の担当者や言語聴覚士がサポートすることが、今後の取り組みの中心になるでしょう。
この新しい転換を推し進めるために、精神医療、福祉、心理臨床の分野で大きな注目を集め始めている、ナラティヴ・アプローチや当事者研究などについて考えます。
新しく担当になった人も、長年経験のある人も、リラックスした雰囲気の中で楽しく学び合います。
講師<記念講演・ワークショップ>:高松 里(九州大学留学生センター准教授・臨床心理士)
北海道大学教育学部卒業。九州大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。大学・大学院時代はエンカウンター・グループ、地域での継続グループに参加し、自らもグループを作る。その後、性暴力・犯罪被害者支援活動に参加し、セルフヘルプグループやサポートグループに参加する。
著書に、「セルフヘルプ・グループとサポート・グループ実施ガイド」(2004年、金剛出版)「日本に住む外国人留学生Q&A」(2005年解放出版)、編著:「サポート・グループの実践と展開」(2009年、金剛出版)、「パーソンセンタード・アプローチの挑戦」(2011年、創元社)など。
講師<基調提案1>:牧野 泰美(国立特別支援教育総合研究所主任研究員)
横浜国立大学大学院教育学研究科障害児教育専攻修了後、岐阜県立岐阜聾学校教諭を経て、1992年8月より国立特別支援教育総合研究所。現在、主任研究員。専門は言語障害児教育、言語獲得、コミュニケーション障害とその支援など。「全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会(全難言協)」をはじめ、各地の「きこえとことばの教室」の担当者や、親の会等と連携しながら、子どものことばやコミュニケーションへの支援の在り方、きこえとことばの教室の役割などについて研究活動を進める。教員養成の大学や言語聴覚士養成の専門学校で言語理論や言語指導の講義も担当している。
著書に、『言語障害のおともだち』(ミネルヴァ書房)。論文は「言語に障害のある子どもの教育と自己肯定感への支援(発達、106号)」(ミネルヴァ書房)、「関係論的視座からのコミュニケーション障害研究の動向(特殊教育学研究、第42巻第1号)」日本特殊教育学会など。
講師<基調提案2>:伊藤 伸二(大阪教育大学非常勤講師・日本吃音臨床研究会会長)
小学校2年生の秋、どもるため学芸会の主役を降ろされて吃音に劣等感をもち、悩み始める。21歳の時、セルフヘルプグループ言友会を創立。大阪教育大学専任講師(言語障害児教育)などを経て、ライフワークである吃音に取り組む。第1回吃音問題研究国際大会を大会会長として運営。現在40か国以上が加盟する国際吃音連盟の礎を作る。1994年、日本吃音臨床研究会を設立。論理療法、交流分析、アサーティブ・トレーニング、認知行動療法などを活用し、吃音と上手につきあうことを探る。
著書に、『吃音とともに豊かに生きる』(NPO法人全国ことばを育む会、両親指導手引き書41)『ストレスや苦手とつきあうための 認知療法・認知行動療法〜吃音とのつきあいを通して』(金子書房)、『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック〜どもる子どもの生きぬく力が育つ』(解放出版社)、『どもる君へ いま伝えたいこと』(解放出版社)など。
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